東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)195号 判決 1969年12月04日
原告 鈴木広光
被告 大田区長 橋爪儀八郎
右指定代理人 樋口嘉男
<ほか二名>
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は、「被告が原告に対し、昭和四三年六月一五日付でした原告の昭和四三年度の特別区民税および都民税の賦課決定のうち各均等割の部分を除き取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、被告は、原告に対し昭和四三年六月一五日付で普通徴収に係る原告の昭和四三年度の特別区民税として所得割三万九、〇四〇円、均等割六〇〇円、都民税として所得割一万五、〇〇〇円、均等割一〇〇円の賦課決定(以下本件処分という。)をした。しかし、本件処分は、次の理由によって違法である。すなわち、
(一) 原告は、本件処分に対し昭和四三年七月二日被告に異議の申立てをしたところ、同年八月八日被告よりこれを棄却する旨の同年七月三一日決定の送達を受けた。ところが、地方税法一九条の九第一項の規定によると、不服申立てに対する決定は、その申立てを受理した日から三〇日以内にしなければならないことになっているのに、被告の右決定はその期間を徒過した後に故意に日付を遡らせてしたものであり、しかも、行政不服審査法四一条二項の規定に違反して、右決定に対し審査請求をすることができる旨および審査請求期間の教示を欠いている。
(二) 原告の申告に係る譲渡所得は、停止条件付代物弁済契約における条件の成就によるものであるが、税法上所得の帰属年度の決定に関しては、現実収入主義ではなくして権利確定主義がとられているのであるから、右譲渡所得は、停止条件の成就によって現実に当該担保物件の所有権が担保権者に移転した昭和四二年一二月一日ではなくして、停止条件付代物弁済契約の締結された昭和三九年八月二五日である。したがって、本件処分は、地方税法一七条の五所定の制限期間経過後に行われたものというべきである。
そこで、本件賦課決定は、各均等割の部分を除き、その取消しを求める
と述べた。
被告指定代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実中、異議決定の日付を遡らせたことおよび同法定送達の日の点は否認するが、その余の事実は認める、と述べ、異議棄却決定が原告に送達されたのは、昭和四三年八月二日である、なお、本件賦課決定は、原告が昭和四三年三月一五日付で大森税務署長に対し昭和四二年分所得として給与所得九一万八、七七二円、譲渡所得七五万円、合計一六六万八、七七二円と確定申告し、それが市町村民税及び個人の道府県民税の申告とみなされる結果、納税通知書の交付によってなされたものであるが、原告の申告に係る右譲渡所得は、原告が昭和三九年八月二五日訴外大森康弘に対する金一二〇万円の借入金債務を担保するため原告所有の不動産につき停止条件付代物弁済契約を締結し、右訴外人が昭和四二年一一月二八日条件の成就により不動産の所有権を取得したことを原因とするものであるから、原告が該不動産を同訴外人に譲渡した日は、まさに、右昭和四二年一一月二八日であって、その譲渡所得の帰属年度は、昭和四二年であり、本件賦課決定が制限期間経過後に行われた旨の原告の主張は失当である、と付陳し(た。)証拠≪省略≫
理由
まず、請求原因(一)について判断する。
地方税法一九条の九第一項は、訓示的規定にすぎないものである。また、個人の都民税の賦課徴収は、地方税法四一条一項、七三四条二、三項、七三六条一ないし三項の規定により、都の区域内の特別区が当該特別区の個人の特別区民税の賦課徴収の例により、当該特別区民税の賦課徴収とあわせて行なうものとされており、これらの規定は、個人の都民税の賦課徴収を当該特別区の権限としたものであるから、その賦課徴収に対する不服申立てについては、行政不服審査法の定めるところにより(同法一九条参照)、賦課決定をした当該特別区の長に対して異議申立てをすることができるだけであって、都知事に対する審査請求や再審査請求は許されていないものというべきである(行政不服審査法六条、五条、八条参照)。したがって、仮りに本件処分に原告主張のごとき事実があるとしても、かかる事実は、いずれも、本件処分の取消事由に該当しないこと明らかである。
次に、請求原因(二)について判断するのに、およそ、停止条件付代物弁済契約があった場合において、当該担保物件の所有権が担保権に移転するのは、右契約の締結によってではなくして、停止条件の成就によってであること多言を要しないところであるから、これと異なる見解に立脚する原告の主張は、採用の限りでない。
よって、原告の本訴請求は、いずれも理由がないので、棄却することとし、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 渡部吉隆 裁判官 中平健吉 斎藤清實)